MRONJ
骨粗鬆症やがんの治療で使われる骨吸収抑制薬と、顎の骨のトラブル。どんなお薬が関係するのか、抜歯の前に何を準備するのか、どんなサインに気をつければよいのかを整理してお伝えします。
SUMMARY
この記事の要点
歯科での問診から
歯科医院で抜歯やインプラントのご相談をいただくとき、私たちが必ずお伺いすることの一つが「骨粗鬆症やがんの治療で、骨のお薬を使っていませんか」というご質問です。これは、一部のお薬と顎骨壊死(がっこつえし)と呼ばれる状態との関連が指摘されているためです。
この言葉を目にすると不安に感じられる方も多いと思います。ただし、対象となるお薬を使っている方の多くは大きな問題なく歯科治療を受けておられ、必要な準備と連携を行うことでリスクを抑えることができるとされています。このコラムでは、顎骨壊死とはどのような状態か、どのようなお薬が関係するのか、歯科ではどのような準備をするのか、そして万一処置を受けた後の過ごし方までを整理してお伝えします。
CONTENTS
目次
01 — CONDITION
顎骨壊死とは、上あご・下あごの骨の一部が血流や治癒の力を失い、歯ぐきの傷が治らないまま骨が露出したり、骨の中で炎症が続いたりする状態を指します。このうち、特定のお薬の使用に関連して生じたものは薬剤関連顎骨壊死(MRONJ:Medication-Related Osteonecrosis of the Jaw)と呼ばれています。
特徴として、あごの骨は歯という「外の世界とつながる器官」を抱えている点が挙げられます。歯周病やむし歯による感染、合わない義歯による粘膜の傷、抜歯などの外科処置といった刺激が加わったときに、骨が治りにくくなることが関連要因として指摘されています。実際、報告されるケースは上あごより下あごに多いとされています。
ここで強調しておきたいのは、対象となるお薬を使っているからといって、必ず顎骨壊死が起こるわけではないということです。骨粗鬆症の治療でお薬を使っている方に生じる頻度は高くないとされており、多くの方は問題なく歯科治療を受けておられます。過度に不安になる必要はありませんが、「知らずに処置を受ける」ことは避けたい——それがこのテーマの要点です。
02 — MEDICATIONS
顎骨壊死との関連が指摘されている代表的なお薬が、骨吸収抑制薬と総称されるグループです。骨は日々「壊されて」「作られて」を繰り返しており、このうち骨を壊す働き(骨吸収)を抑えることで骨を守るお薬です。
同じお薬でも、骨粗鬆症の治療で使う場合と、がんの骨転移や多発性骨髄腫に対して使う場合とでは用量が異なり、一般にがん領域での高用量投与のほうがリスクは高いと考えられています。また、使用期間が長い方、ステロイドや糖尿病、喫煙などの要因が重なる方では、より慎重な管理が推奨されています。
大切なお願い:お薬を自己判断で中止しないでください。骨粗鬆症のお薬を自己判断でやめてしまうと、骨折のリスクが高まる可能性があります。がん治療のお薬であればなおさらです。服薬の継続・中止・休薬の判断は、必ず処方医(主治医)が行います。歯科でも、必要と判断した場合は当院から主治医へ照会し、方針を確認したうえで進めます。
MEDICATION CHECK
1つでも当てはまる、または分からない場合は、受診時にお薬手帳をそのままお持ちください。
お薬の名前を覚えていなくて構いません。お薬手帳・処方せんの控え・薬局でもらう説明書のいずれかをお持ちいただければ、歯科側で確認します。複数の医療機関にかかっている場合は、すべての手帳をお持ちください。
01 — MEDICATION HISTORY
お薬の種類・投与経路(内服か注射か)・使い始めた時期・現在も継続しているかを確認します。過去に使用していて現在は中止している場合も、その旨をお伝えください。判断材料として重要とされています。
02 — MEDICAL LIAISON
必要と判断した場合、当院から処方医へ診療情報提供書などで照会し、原疾患の状態や治療方針を確認したうえで歯科処置の計画を立てます。お薬をどうするかの判断は処方医が行い、歯科が単独で中止を指示することはありません。
03 — ORAL PREPARATION
最も推奨されているのが、骨吸収抑制薬による治療を始める前に歯科を受診し、必要な処置を済ませておくことです。保存が難しい歯の処置、むし歯・歯周病の治療、合っていない義歯の調整、被せ物の角による粘膜の傷の解消などを行い、感染や刺激の原因を減らしておきます。
04 — FOLLOW UP
すでに服薬中の方も、定期的に歯科で口腔内を確認し、清掃と義歯の適合を保つことが推奨されています。トラブルが小さいうちに対応できれば、大きな処置を避けられる可能性が高まります。処置が必要になった場合は、侵襲をできるだけ抑えた方法を検討します。
04 — SIGNS
顎骨壊死は、初期には自覚症状がはっきりしないこともあるとされています。一方で、「いつもと違う状態が長く続く」ことが手がかりになる場合があります。骨吸収抑制薬を使用中の方は、次のようなサインに気づいたら、様子を見すぎずに歯科へご相談ください。
特に、抜歯した部分が2〜3週間たっても治ってこない、歯ぐきの下に硬いものが触れる、下唇やあごにしびれを感じるといった場合は、早めの受診が望まれます。しびれは、あごの中を通る神経が刺激を受けているサインの可能性があるためです。
なお、これらの症状は歯周病や根の先の炎症など、顎骨壊死以外の原因で起こることも多くあります。ご自身で判断せず、まずは歯科でお口の中とレントゲンを確認することが第一歩です。お口の外科的な処置全般については口腔外科のご案内もご覧ください。
WARNING SIGNS
歯ぐきの腫れ・痛み
繰り返す腫れ、押すと痛む、赤みが引かない
骨が見える・触れる
歯ぐきから白っぽい硬いものが露出している
膿が出る・強いにおい
同じ場所から繰り返し膿が出る、口臭が急に強くなった
下唇・あごのしびれ
感覚が鈍い、ピリピリするなどの違和感が続く
歯が動く・浮く感じ
思い当たる理由なく歯がぐらついてきた
傷が治らない
抜歯した部分が2〜3週間たっても塞がってこない
迷ったら、早めにご相談ください。上記は顎骨壊死以外の原因で起こることも多くあります。歯科での確認が、原因を切り分ける最初のステップになります。
05 — TREATMENT
顎骨壊死と診断された場合の対応は、骨の露出の範囲、感染や痛みの程度、全身の状態、原疾患の治療方針によって大きく異なります。「この状態ならこの治療」と一律に決まるものではなく、歯科・医科が相談しながら方針を決めていくのが実際です。
大きく分けると、痛みや感染のコントロールを中心に経過を見ていく保存的な対応(洗浄、うがい薬、必要に応じた抗菌薬の使用、清掃の徹底など)と、壊死した骨を取り除くなどの外科的な対応があります。どちらを選ぶか、いつ行うかは状態により判断され、保存的に管理しながら経過を見るケースも少なくありません。外科的な対応が望ましいと判断される場合は、当院から連携する病院・大学病院の口腔外科へご紹介します。
外科的な処置を受けた後については、担当医からの具体的な指示が最優先ですが、一般的には次のような配慮が案内されることが多くあります。
なお、手術を伴う治療の前後にお口の中を整えておくこと(周術期口腔機能管理)は、術後の合併症や入院期間に関わる取り組みとして位置づけられています。
06 — DAILY CARE
顎骨壊死のリスクを考えるうえで、日常の口腔管理は土台にあたる部分とされています。特別なことではなく、次のような基本の積み重ねが推奨されています。
そして何より大切なのが、医科と歯科の双方に「今使っているお薬」を伝えることです。骨のお薬を始める予定がある方は、開始前に一度歯科を受診いただくことをおすすめしています。当院の考え方や体制については院長プロフィールもご参照ください。
SUPERVISOR
監修:桐生 賢太(きりう けんた)
つむぎ歯科クリニック 院長/歯科医師
外来診療と訪問歯科診療の双方で、全身疾患をお持ちの患者様の口腔管理に取り組んでいます。主治医・連携医療機関との情報共有を重視した診療体制。院長プロフィール →
最終更新日:2026年7月25日
REFERENCES
本コラムは、顎骨壊死検討委員会による「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理」に関するポジションペーパー、日本口腔外科学会・日本歯科医師会の公表資料、厚生労働省および医薬品医療機器総合機構(PMDA)の公表資料を参考に作成しています。
記載内容は2026年7月時点の一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の診断・治療方針を示すものではありません。症状や必要な対応は患者様お一人おひとりの状態により異なります。服薬の継続・中止・休薬については、必ず処方医(主治医)の指示に従ってください。本コラムの内容を理由に、ご自身の判断でお薬を中止しないようお願いいたします。気になる症状がある場合は、自己判断せず歯科医師・医師にご相談ください。
CONTACT
お薬手帳をお持ちのうえ、お気軽にご相談ください。必要に応じて処方医と連携し、無理のない計画をご提案します。お薬を始める前のチェックも承っています。